森林組合連合会機関誌「森林組合」 No.671 2026年5月号 寄稿文
森林と社会の距離という課題
森林組合の代表的な仕事は、木を育てて伐ることで、主に森林を整備することにあります。しかしその仕事の多くは山の中で行われるため、社会や地域の人々にとっては見えにくく、森林や林業の現状が十分に伝わっているとは言い難い状況があります。
森林は水源かん養や防災、生物多様性の保全など多くの機能を担い、私たちの暮らしと密接に関わり、暮らしを支える基盤であるにもかかわらず、その存在は見えにくく、結果として社会との距離が生まれていると感じています。
この「森林と社会の距離」をどのように縮めていくのかは、これからの森林組合にとって重要な課題の一つであると考えています。
広報誌「森と、杣と。」の発行
高島市森林組合では、これまでも「森林組合だより」を発行してきましたが、「森林と社会の距離」という課題を背景に、より多くの方に手に取っていただける広報のあり方を模索してきました。そうした中で、2023年5月号からタイトルを一新し、「森と、杣と。」としました。タイトルには、森林を物質(ハード)として捉えた「森」と、文化(ソフト)として捉えた「杣」と、森林の多面的な役割を象徴する二つの漢字を採用しています。木材という資源としての価値だけでなく、人の営みや歴史、文化と深く関わってきた存在として広い視点で森林を捉え直すことが、この広報誌の出発点となっています。本誌は年2回の発行を基本とし、森林施業の現場や林業に関わる人々の姿、地域との関わり、森林を取り巻く社会的課題などを幅広く取り上げています。単なる事業報告ではなく、森林組合の仕事の背景にある考え方や、森と人との関係を丁寧に伝えることを目的としています。
分かりやすさを重視した誌面づくり
誌面づくりにおいて重視しているのは、「専門的な内容をいかに分かりやすく伝えるか」という点です。林業は専門用語や技術的な内容が多く、一般の方にとっては理解が難しい分野です。そのため、できるだけ簡単な言葉を用い、なるべく多くの写真を活用しながら、森林での仕事の意味や目的、背景が伝わるよう工夫しています。
また、組合への親近感を高めるため、職員の素顔が見える記事や地域との関わりも意識的に紹介しています。特集記事やシリーズ記事といった読み物も毎号掲載し、継続的に読んでいただける誌面づくりを心がけています。
単に情報を整理して伝えるのではなく、「なぜ山でこの作業をしているのか」「この取り組みが地域にとってどのような意味を持つのか」といった視点を重視し、日々の現場での作業一つひとつには理由があり、その積み重ねが森林の将来を形づくっているということを伝えています。背景にある判断や考え方を伝え続けることが、林業への理解を深めることにつながると考えています。
地域との関わりを広げる
さらに近年は、森林組合の内部にとどまらない地域への広がりを意識しています。地域の清掃活動やお祭りへ積極的に参加することで住民や子どもたちと関わり、また学校教育との連携や木育活動など、森林と人とが直接関わる場を積極的に生み出し、その模様は「森と、杣と。」でも取り上げています。
森林は長い時間をかけて育つものであり、その価値や役割を次の世代に伝えていくことが不可欠です。そのため、広報誌においても子どもや保護者といった新しい層に届くような内容を取り入れ、森林への関心を育てることを意識しています。広報は情報を伝えるだけでなく、森林と人との関係をつくる入り口でもあると考えています。
学校教育との連携で子どもたちに林業を伝える
イベント「Re-Woods」による体験型の発信
こうした取り組みと並行して、森林と社会をつなぐ実践的な活動も展開しています。その代表的なものが2024年から始まったイベント「Re-Woods」の開催です。このイベントタイトルは、木や木材(Wood)が集まり、さまざまな価値を持つ森林(Woods)となり、それらと人との関係を再び(Re)見つめ直し、暮らしの中に森林との関わりを取り戻していって欲しいという想いを込めています。
このイベントでは、林業機械の実演はもとより、木に触れる体験やワークショップ、トークショーや即売会などを通じて、森林の価値や魅力を伝えることを目的としています。広報誌で発信した内容を実際の体験につなげることで、「読む」だけでなく「感じる」広報へと拡張してきました。実際に木に触れ、森林や現場の空気を感じることで、言葉だけでは伝わりにくい林業の魅力や意義がより実感を伴って理解されていくと思います。誌面での広報と、リアルな体験の取り組みを一体的に進めることが、森林組合の活動に対する理解を深めるうえで重要であると考えています。
イベント「Re-Woods」を開催
林野庁長官賞受賞が示した広報の可能性
こうした一連の取り組みが評価され、「森と、杣と。」は第58回林業関係広報コンクール(広報誌部門)において、最優秀賞(林野庁長官賞)を受賞しました。この受賞は、誌面のデザインや構成といった表面的な部分だけでなく、森林組合が社会との関係性を見直し、地域内での新しい役割を模索してきたことに対する評価であると受け止めています。
森林組合の広報は単なる情報発信ではなく、森林と社会との接点をつくる重要な役割を担っています。今回の受賞を通じて、その可能性と責任の大きさを改めて認識する機会となりました。
組合内部に生まれた変化
広報誌に加え、日々のSNSでの広報活動などを継続する中で、組合内部にも変化が生まれています。現場の職員が自らの仕事を言葉にし、外に向けて伝える意識が高まりました。これまでは「見せるものではない」と考えられていた作業や判断も、広報として伝えることでその意味や価値が共有されるようになってきています。
また、こうした意識の変化に伴い地域の方々や子どものほか、公共建築物や木造施設の建設に伴う林業現場見学の受け入れなどにも柔軟に対応できるようになり、外部に開かれた組織へと変化しつつあります。広報誌を通して地域の方々から声をかけられる機会も増え、森林組合の活動に対する理解が徐々に広がっていることを実感しています。広報は外に向けた取り組みであると同時に、組織の内側を変える力も持っているといえます。
森林を取り巻く課題と広報の役割
一方で、森林を取り巻く課題は依然として多く存在しています。森林所有者の高齢化や不在村化、担い手不足や獣害による再造林の難しさなど、山積した課題は複雑化し、森林組合だけで解決できる範囲を超えつつあります。こうした課題は森林組合だけではなく、行政や地域、社会全体で向き合う必要があります。森林組合は山の中の仕事で完結する存在ではなく、地域や社会の中で中核的なハブとしての役割を果たしていく存在へと変化しているのではないでしょうか。
「森と、杣と。」は、その関係性をつくるための一つの手段です。森林の現場で起きていることを丁寧に伝えることで、これまで見えにくかった森林の現状や役割、課題を共有し、森林と人との距離を少しずつ縮めていく。広報はそのための基盤となるものであり、関係者の理解をつなぐ役割を担っているのです。
森林と社会をつなぐ存在として
森林組合は山の中だけの存在ではなく、地域や社会とともにある存在です。森づくりは山の中だけで完結するものではなく、多くの人の関わりによって支えられています。その関係を可視化し、地域社会で共有していくことが、これからの森林組合に求められる新しい役割であると考えています。
今後も広報を通じて森林と社会をつなぎ、森林組合の存在価値を模索し続けます。
森林組合が山と地域社会をつなぐ
(組合だより「森と、杣と。」第33号掲載)
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