森林組合の役割と組合経営
組合の定款では、「組合員の経済的社会的地位向上並びに森林の保続培養および森林生産力の増進を図ること」となっています。組合員さんから出資をいただいて作られた協同組合です。正組合員、準組合員さん合計で2348名おられます。役職員は、非常勤を含め役員14名、職員15名の構成になっています。部門としては、組合員さんの山を調査、提案、施業管理するプランナー部門、山で木を伐採する森林施業部門、山から出てきた木材を販売する販売部門、総務と、大きく4部門からなっています。
生産量と出荷先
原木の生産量
丸太の取扱量としては令和元年9474㎥、令和2年13734㎥、令和3年10486㎥と、近年は10000㎥を超えるようになってきました。内、主伐材は10~20%で、あとは間伐材や所有者さんからの持込材、工事の伐採木です。
建築用材の生産量
建築年度にもよりますが、建築用材の割合は低いときで20%、高いときで30%くらいです。その年度に施業している山によって変わります。合板用が概ね50%、残りがチップ・バイオマス・中国への輸出用となります。
出荷先
建築用材(A材)は市内製材所への直売りの他、市外木材市場、三重県木材市場へ販売しています。合板用(B材)は県外ベニヤ工場、バイオマス用(C材)は市外チップ工場・バイオマス・海外輸出用に分けます。
高島産の木の特徴
(1)良い面
・積雪が多い中で育っているので、木に粘りがあります。よく言われていることですが、その地域の風土で育った木を使って家を建てる事が一番良いと思います。
・特徴ではないですが、森林面積や蓄積された資源量が多く、近年は搬出量も多くなってきており、県内でも一定の存在感、発言力があります。
(2)悪い面
・積雪が多いので密植では無く、疎植なため、末落ちがあります。根曲がりしています。つまり、1本の木から取れる歩留まりが低いです。
・出荷先に工場が増えたため、枝部分の虫害が出る材はA材を取り扱っている工場への納入が出来ません。
今後の課題、事業展開
(1)広葉樹の活用
・今、手入れ出来ているのは針葉樹林が主です。市内の森林面積(竹林、無立木地、更新困難地を除く)は31,332haで、その内、広葉樹林は16,162haと51%を占めます。この広大な面積をどのように手入れしていくのかという課題があります。
まず、現在、成長している広葉樹林の利用方法としては、元々、薪炭林として育林された山で、家具材に適した太さになった山は家具メーカーさんとタイアップして直売りを始めたり、そういった家具メーカーさんが顧客である木材市への出荷も始めています。また薪の需要も急激に増えてきているので、薪材の問屋さんと新規取引を始めています。
・広葉樹林の育林方法について先進地への研修を始めています。岐阜県飛騨市であった広葉樹林活用による地域再生シンポジウムは、飛騨市森林組合さんが行っている広葉樹林の育成方法や広葉樹を生かすために地域に求められること等、示唆に富む内容でした。その中で印象に残ったのは、なぜ、うまくいかないのか、ニーズが分からない、使う人が居ない、使い方が分からない、広葉樹の山の育て方が分からない、など、こういった諸問題は即ち「情報の断絶」であり、どの産業でも起こっており、林業で言うなれば、川上・川中・川下が一体となって対応していくことが大事だということでした。
まず、地元の産業で木材がどのように使用されているのか、いわゆる特産品は何かを改めて掘りおこしていく事が、山の活用に繋がっていくとのことでした。
・広葉樹の活用は針葉樹と違い、面白みがあります。でも手間が掛かることが難点です。資源量の把握が困難であり、伐出技術の特殊性、造材できる人材の不足などが挙げられます。市内では椋川などで、資源量の把握についての取り組みが地元発信で始まっていますので、組合としても係わっていきたいと思います。
(2)スマート林業(低い生産性、高い労働災害率の解決のため)
航空レーザー測量の成果物を活用した路網解析ソフト
他所がたまたま行っていた市内の航空レーザー測量の成果物を借用することができ、山側の地形データを部分的にですが、得ることが出来ました。これを活用し、令和3年度に路網開設の為の解析ソフトを導入しました。まだまだ発展途上ですが、これがもっと改良されていけば、人が踏査して開設ラインを見に行かなくても、路網が付けられるようになると思います。
ドローン
台風被害の甚大な箇所、歩いて1時間かかる箇所などの調査にドローンを活用して効率化を図っています。
測量ソフト
今年度、導入した物ですが、GPS情報を受信することで現在の位置を特定して測量する器機です。今まではデジタルレーザーコンパス測量をしていましたが、これには2人必要でした。今回、導入した物は1人でも測量が出来るので、大きな効率化を図る事が出来ます。しかし、便利になりすぎて安全管理について考えていく必要が出てきました。
(3)基幹道の研究
現在の施業では幅員2.5mの森林作業道が主です。この道から、木材を運搬するためにはクローラタイプの運材機械を使用することになりますが、最寄りの林道、県道から遠くなるにつれて収支が不採算になっていき、整備できる山も限界が出てきます。
これに対応していくために、しっかりとした基幹道を付けて、トラックでの運搬を可能にし、コストを低減させる事で、所有者さんへの利益還元を図ろうとしています。測量、製図、設計講習など、県事務所の普及員さんにも指導を受けながらモデル基幹道の設置に取り組んでいます。
(4)架線系搬出
手入れ出来ているのは、里に近い山のみです。里から遠い山をどのように手入れしていくのか。以前、オーストリアに研修へ行きましたが、日本とは違い、基幹道をしっかり入れて、作業道を極力少なくし、そこから架線を張って施業することで、山の地表面を保全しながら施業していました。当組合でも、このような環境に配慮した林業に取り組んで行きたいと思っています。
(5)ゾーニング
現在、行っている車両系搬出システムと架線系搬出システムを区別できるゾーニングをしたいです。これには先に紹介した路網開設の解析ソフトで基幹道をどこまで開設出来るかがポイントになってきますが、これが出来れば、無理な路網開設を防ぐことが出来ます。
(6)森林施業係の育成と機械化
平成30年度より、現業部門の育成に取り組み始め、現在6人体制となっている。3人は今年度より採用しました。育成には非常に長い時間が必要となりますが、請負業者さんの高齢化も進んでおり、取り組んで良かったと感じています。また労働災害の多い伐倒、造材作業において、高性能林業機械を導入した事により、効率化を図る事ができました。まだまだ未熟ではあるが、請負業者さん以上の生産性を出すことが出来ています。
(7)主伐、再造林の推進
主伐、再造林がこれから先10年間のトレンドとなってきます。2050年のカーボンニュートラルを目標として、その為に再造林に期待される所も大きいです。再造林については、高島市においては獣害の問題が根深くあり、簡単に解決できる物ではないですが、現在、複数の獣害対策(鹿よけ君、防護柵、竹杭、下刈りしない)を試行錯誤しているので、何らかの解決策を編み出したいです。そこを突破することで主伐に取り組みたいです。
(8)将来、高島の山をどのようにしたいか
所有者さんにとって、山がもっと身近な存在になるようにしたいです。具体的には30年間で市内の森林整備が一巡するようにして、山からの収益を得てもらいやすくします。その為には路網のインフラ整備、ICTを活用した地理空間データなどの基盤整備、架線技術の習得が必要となります。